企業法務コラム

労災補償「みなし労働時間」認めない裁決 労働者自らが時間配分を決められず

江東区の会社でシステム開発を担当し、長時間労働で精神疾患を発症した男性(37)に対し、亀戸労働基準監督署が「裁量労働制」に基づき労災の休業補償給付額を算定したのは誤りだと男性が主張した審査請求で、東京労働者災害補償保険審査官は、「男性の裁量で労働していたものとは認められない」などとして、同労基署の決定を取り消す裁決をした。
裁決は3月21日付。男性の代理人を務める八王子合同法律事務所の尾林芳匡弁護士(東京過労死弁護団幹事長)が25日、記者会見で明らかにした。
尾林弁護士によると、男性は金融機関向けシステムの新規開発を担当していた2004年2月、1か月間の時間外労働が123時間に達して精神疾患を発症し、その後、療養生活を余儀なくされた。亀戸労基署は昨年4月、男性を労災認定したが、男性の雇用形態に従い、あらかじめ定めた時間働いたとみなす「裁量労働制」で、算定した休業補償給付をしようとした。
これに対し、審査官は、「男性の業務は、プロジェクトチームとしてチーフの管理下で(労働)時間配分が行われており、男性の裁量で労働していたとは認められない」「(休業補償給付の算定基礎となる)平均賃金はみなし労働時間によらず、(実際の)時間外労働に対する賃金を算入すべき」などと判断した。

※引用
2013年3月26日 読売新聞
労災補償 「みなし労働時間」認めず
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyotama/news/20130326-OYT8T00002.htm

(評)
裁量労働制とは、労使協定等で決められたみなし労働時間数労働したと定め、仕事のやり方や時間配分を従業員の裁量にまかせる労働方式。実際の労働時間数に関係なく協定で決まった時間労働したものとみなされる。みなし労働時間を1日8時間と決めれば、10時間働いても、4時間しか働かなくても、8時間働いたものとみなして労働時間が計算される。
どんな仕事でも、裁量労働制が適用できるわけではなく「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、「情報処理システムの分析又は設計の業務」は専門業務型の一つとして、裁量労働制をとることが認められている。
しかし、プログラムの設計又は作成を行うプログラマーはこれには含まれない。①ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定、②入出力設計、処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等、③システム稼働後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務がこれに該当する。
システム分析・設計のほかに、プログラミング作業、営業も行っていた従業員について、裁量労働制が許される「情報処理システムの分析又は設計の業務」には当たらないとした判例として「京都地判平23.10.31平21ワ2300号」がある。
本件は、実際システム分析・設計に携わっていたのであろうが、プロジェクトリーダーの管理下で時間配分が行われ、労働者自らが時間配分を決められなかったというところで、裁量労働制の適用を否定されたようだ。
時間外労働時間が123時間あったというから、相当タイトな業務を担当させられていたのだろう。労務管理としては80時間超は黄色信号、100時間超は赤信号。123時間などは問題外といえる。法定労働時間で消化可能な業務量をはるかに超える業務を割り当てられたとしか考えられず、それでは時間配分を組み立てようにも組み立てようもない。そのような評価もあっての裁決ではないか。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹

2013年03月29日
法律事務所ホームワン