企業法務コラム

保険の在り方WG結果報告 不妊治療保険商品化も提言

「保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループ」の報告書が6月7日付で取りまとめられ、6月11日発表された。
概要は以下の通り。

少子高齢化をはじめとする社会情勢の変化に伴い、保険商品や保険会社によるサービスに対する国民のニーズ・期待の変化に対応するため、以下の見直しを行う。
1 新しい保険商品の販売
 ・不妊治療保険
 ・提携事業者による財・サービスの提供がキャッシュレスで受けられる
2 保険会社グループの業務範囲の拡大
  ・保険・子会社による保育所運営の解禁など
3 共同行為制度の活用促進

来店型保険ショップやインターネットを通じた募集の増加といった保険募集チャネルの多様化やいわゆる保険代理店の大型化など、保険募集を巡る環境の変化に対応するため、募集・販売ルールについて、以下の見直しを行う。

1 保険募集の基本的ルールの創設
・意向把握義務の導入
顧客の意向に沿った商品を提案する等の一般原則を明文化する。
・情報提供義務の法定化
保険募集時に商品情報等の説明を行うことを法令において求める。
・募集文書の簡素化(業界の自主的な取組み)
保険加入時に不要な情報は省略し、募集文書を顧客にとって分かりやすいものとする。

2 保険募集人の義務
・保険募集人の体制整備義務の導入
保険代理店自身に対しても、法令等遵守のための体制整備を義務づける。
・乗合代理店に係る規制の見直し
複数の保険商品の中から比較推奨販売を行う場合に、推奨理由の説明等を義務づける。
・保険募集人の業務委託先管理責任
保険代理店に対しても、保険会社同様に、業務委託先の適切な管理を求める。

3 募集規制の適用範囲
・募集規制の適用範囲の再整理・明確化
比較サイトや見込み客紹介サービスの出現など、募集プロセスの多様化に伴い、保険業法の規制の及ぶ範囲を再整理・明確化する。
4 保険仲立人に係る規制の見直し
・契約手続の簡素化、供託金の最低金額の引下げ等

(評)
2点につき解説したい。
まず1点が、不妊治療の保険商品化について
厚生労働省の「不妊に悩む方への特定治療支援事業」においても、法律上の婚姻をしている夫婦に対する不妊治療のうち、1回の治療費が高額な特定不妊治療に対して、国が当該治療費の一部を助成しているが、当該制度の利用件数も増加傾向にある。
不妊治療に係る保険については、不妊という事由の発生には偶然性が認められ、不妊治療に要する高額な費用を経済的にてん補するニーズもあることから、保険の対象となりうる要素を備えている。しかし、不妊治療を保険商品化すると逆選択の問題が起こる。不妊治療を受けるかどうか、不妊治療の期間、治療方法については、専ら被保険者の意思に委ねられている。しかしこうした意思的要素を保険会社は認識しようがない。本来保険会社は「加入者全体の平均的リスク」を考慮して保険料率決定するが、そこでは「リスクの低い加入者」の存在が前提となっている。ところが、不妊治療保険を商品化すると、出産意欲の高いものだけが保険に加入することで(逆選
択)、保険料率を高く設定せざるを得ない。そうなると、低リスクの人は、高い保険料を敬遠して、保険に加入しなくなる。そうすると、ますます保険料を高く設定せざるをえなくなる。こうした悪循環が不安要素としてある。
公的医療保険制度は、リスクの低い人も強制加入させるからこそ成り立っているのである。不妊治療保険の商品設計は非常に難しい。
もう1点が、共同行為制度。
独占禁止法には適用除外制度というものがあり、現在,36の法律において,55のカルテル制度が独占禁止法の適用除外とされている。
損害保険分野では多くの共同行為の適用除外が認められている。単独では引き受けられない巨額の保険リスクがある場合等に対応するため、航空保険等一定の保険類型に限り、危険の分散又は平準化を図るための共同行為について独占禁止法の適用除外になっている。
しかし、外部環境等の変化により、今まで想定されなかった様々な保険ニーズが生じつつある。しかし、これまでに保険引受の実績がないため、合理的な保険料算出に必要なデータが十分に存在せず、リスク評価が困難で、結局商品化されないことも多い。もし、各社が共同して保険を引き受けることができれば、保険料算出に必要なデータ収集に係る時間の短縮やリスクの分散が見込まれ、その結果、これまで保険引受が行われていなかったようなリスクをカバーする商品の開発の促進につながり、社会的に意義があると考えられる。このため、共同行為制度の創設、既存制度の条件緩和が期待されている。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹

2013年06月17日
法律事務所ホームワン