企業法務コラム

老朽マンション売却促す

国交省と法務省が老朽マンション対策の法整備について協議を開始した。マンションの解体ないし売却については、従来全員の同意が必要だったが、所有者の人数や専有面積などに応じ、全体の8割の合意で済むようにする改正法案を、早ければ来年の通常国会に提出する予定。現行法だと、借家人、抵当権者の全員同意も必要となるが、それも緩和する方向。

※参照
2013年8月29日 日本経済新聞 朝刊
「老朽マンション売却促す 住民合意8割に緩和 政府検討、住み替えへ財政支援」

(評)
現行法でも、所有者の8割の合意があれば、マンションの建て替えはできる。ただ、現状建て替えは遅々として進んでいない。古い公団住宅のように、庭を広く取ってあるような場合は、容積率に余裕がある。このため、容積率いっぱいの建物に建て替えれば、面積的に余剰が生じ、その権利をデベロッパーに売却すれば、新たな建築費を負担することなく、建て替えができる。しかし、そのような建物はそう多くはない。多くの建物は現在の容積率をフルに使って建てられているため、建て替えるとなると多額の建て替え資金が必要になる。中には建設当時より容積率が低くなっていて、同じ面積の建物さえ建てられないこともある。こうした場合に、多数決で建物を壊して、更地を売却できるようにすれば(或いは建物全体をデベに売却し、デベが建物を取り壊してマンションを新設する)建物の新陳代謝が促進される。
以前からこのような構想はあったが、今まで法務省の反対で実現しなかった。自分が同意もしていないのに、家を奪われ、追い出されるというのは私有権に対する重大な侵害となると考えたのだ。しかし、そうした法務省の反対を抑え込む事件が起きた。東日本大震災である。建物が半壊しているため、住民の多くが、建物は取り壊し、土地を売却したお金で新しいマンションを購入しようと考えたのだが、一人でも反対するとそれができないのだ。そのため震災による被害建物のための臨時的な法律として8割の合意があれば売却取り壊しができるようになった。役人というのは先例ができると、今までの理屈はどこへやら、それならやっても良いだろうということになる。
そのため、旧耐震基準の建物に限り、8割の多数決で売却、解体ができるということにするらしい。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹

2013年09月04日
法律事務所ホームワン