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最高裁、過労死について労働者側の立証負担軽減する厚労省基準で認定
居酒屋チェーンの男性店員が,急性心機能不全で死亡したのは過労が原因として、両親が経営会社と代表取締役ら役員4人に約7860万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷は24日、会社側の上告を退ける決定をし、平成23年5月25日大阪高裁判決が確定した。
(評)
大阪高裁判決(さらにその原審京都地裁京都地裁H22.5.25判決)の注目すべき点は、厚労省の通達「脳血管疾患及び虚血性心疾患(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」が「発症前1か月間におおむね100時間、又は、発症前2か月間ないし6か月にわたって一か月80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」と定めているのを引用し、同基準に該当する場合は、業務による過重負荷と発症との関連が強いとして,原則として相当因果関係が認められ,業務災害と判断されるとした点である。長時間労働と虚血性心疾患の因果関係を医学的に立証するのは不可能に近いが、厚労省の上記認定基準時に違反すれば、原則因果関係が認められるとしたことは、この点に関する労働者側の立証の負担を劇的に軽減することになった。
さらに注目すべきは、代表取締役他の役員の責任を認めた点である。この点で想起されるのが、大和銀行ニューヨーク支店損失事件についての平成12年9月20日大阪地方裁判所判決だ。同判決は「健全な会社経営を行うためにはリスク管理が欠かせない」として、取締役はリスク管理のための内部統制システムを構築すべき義務があり、代表取締役らがこの義務に違反したとして会社に対して巨額の損害賠償を認めた。京都地裁判決、大阪高裁判決は、この考え方を発展させ、会社は「労働者の生命・健康に配慮し,労働時間が長くならないよう適切な措置をとる体制をとるべき」とし、「時間外労働として1か月100時間,それを6か月にわたって許容する三六協定を締結している」こと自体、そうした義務に反しており、死亡従業員の遺族に対する損害賠償を認めたのである。
もし、80時間以上の労働を許容する特別条項付36協定をしていれば、即刻改定する必要がある。
この点、既に法律も改正されている。労働基準法施行規則の別表第1の2の8号の「長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)若しくは解離性大動脈瘤又はこれらの疾病に付随する疾病」に該当することが立証されれば、特段の反証がない限り、業務上の疾病(労基法75条、労基則35条)と認められる。この8号は、平成22年5月施行の労基則改正により新設されたものである。
厚労省は平成23年12月に改正された「心理的負荷による精神障害の認定基準」でも、「過去2か月間に月約120時間以上」ないし「過去3か月間に月約100時間以上の時間外労働」を行っていた従業員がうつ病との精神障害を起こせば、原則業務災害とされるようになっている。
法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹
2013年09月30日
法律事務所ホームワン