企業法務コラム

東京地裁 乾杯で死亡、業務起因性を肯定

判例検索サービスの判例秘書で、平成26年3月19日付で東京地方裁判所判決が、接待の場での大量の摂取による死亡事故を労災と認めたことが分かった。
Aさんは映像制作会社の従業員で、NHKの従業員とともに、ドキュメンタリー番組制作のための中国ロケを行った。このロケでは飛行場の撮影を行うことが目的とされていたが、その撮影には中国共産党当局の許可が必要であった。Aらは当地の共産党宣伝委員Bを招いて飲酒を伴う食事会を開催したが、同日夜、Bの主催する返礼の宴会に招かれ、Aはそこで白酒を複数杯飲んだ。Aはその夜、宿泊先のホテルに戻った後、吐しゃ物を気管に逆流させて窒息死した。
労働基準監督署長は、遺族からの労災申請に対して、業務と死亡との間の因果関係を認めず、不支給処分を行った。本件はこの不支給処分に対する取消訴訟である。裁判所は、Aらスタッフは、中国側の返礼の会を、中国ロケの重要な目的である飛行場の撮影許可を得る窓口である委員会の要人との親睦を深める絶好の機会、業務遂行に必要不可欠と認識し、勧められるまま「乾杯」を繰り返し、Aも、限界を超えるアルコールを摂取したものと認定、Aの従事していた中国ロケに内在する危険性が発現したものとして、業務との間の因果関係を認め、本件不支給決定を取消した。

※参照
判例検索サービス「判例秘書」

(評)
本判決は、中国ビジネスの特殊性を指摘し、業務起因性を肯定し、上記の通り判決した。
1 中国では、ビジネスにおいて人脈が強い影響力を持つと考えられており、飲酒を伴う宴会が、官庁や企業における業務を円滑に遂行するために必要なものとして捉えられる傾向がある。
2 中国では、宴会の誘いを断ることは相手の面子を潰すことになるので避けるべきであると解されている。
3 中国の伝統的な宴会では、アルコール度数の高い白酒を挨拶を交わしながら一気に飲み干す「乾杯」が繰り返され、こうした宴会においては、注がれた酒を飲まないことは相手方に対して失礼な行為であるとみられる傾向がある

私も台湾に弁護士会同氏の親睦で旅行したことがあったが、「カンペー」と言われて、飲まないといつまで経っても「カンペー」と言われた。乾杯は文字通り杯を乾かす必要がある。英語もBottoms up!だから、彼国でも似たようなものか。

法律事務所ホームワン 代表弁護士 山田冬樹

2014年10月07日
法律事務所ホームワン