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定款作成上の注意起業をする際の定款作成のポイントと注意点
株式会社を設立するには、発起人が定款を作成し、その全員がこれに署名し、又は記名押印しなければなりません。そして定款は公証人の認証を受けなければ効力を生じません。
公証人の認証を受けた定款は、現物出資の取消、発行可能株式総数の変更等限られた場合以外は、会社の成立前は変更することができなくなります。
定款に書くべき内容
絶対的記載事項
法律上定款に必ず記載しなければならない事項です。
- 目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
- 発起人の氏名又は名称及び住所
相対的記載事項
次に掲げる事項は、定款に記載しなければ、その効力を生じません。
- 金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数
- 株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称
- 株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称
- 株式会社の負担する設立に関する費用(定款の認証の手数料その他株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。)
任意的記載事項
定款に定めず、社内規定としておくことも可能なものでも、定款に記載することは可能です。こういった事項を任意的記載事項と言います
以下、定款に記載すべき事項で、気をつけるべき点を書きました。中小企業的な立場で重要と思われる点に限っています。
商号
絶対的記載事項です。
商号とは会社の名前です。どのような名前をつけようと自由です。以前はアルファベットを使うことはできませんでしたが、現在、そのような制限はなくなりました。
また以前は、同一市町村内、同一目的、同一商号の会社は登記できないことになっていましたが、現在では登記可能となっています。ですから、有名な企業の名前を使って登記することもできますが、後日当該有名企業から訴訟を起こされ商号の使用を禁止されることがあります。
有名の程度が地方レベルの場合、同一商品を扱っていなければ使用禁止とはなりませんが、全国レベルで有名な商号を使った場合、異なる商品を扱っていても使用禁止が認められます(あの「シャネル」が「スナック・シャネル」を訴えて勝訴して例があります)著名企業の商号をそのまま次の制限があります。
- 不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない(会社法8条)。
- 他人の商号として、需要者(消費者より広い)の間に広く(一地方程度の広がりが必要)認識されているものと同一の商号を使用して、他人の営業と混同を生じさせてはならない(不正競争防止法2条1項1号)
- 他人の著名な(全国的に誰もが知っている程度のものであることが必要)商号を使用する行為(不正競争防止法2条1項2号)
株式会社の文字を商号に含めなければなりません。 銀行、保険業、信託業を営まない会社が、商号にその文字を使用してはなりません。
会社の目的
絶対的記載事項です。
会社の目的をどの程度具体的に定めるかは、会社が自ら判断すべき事項であり、不明確、抽象的等を理由に、登記してもらえないということはありません。ですから、何個か目的となる事業を掲げた後、「前各号に付帯関連する一切の事業」としても、さらには「その他一切の事業」としてもいいことになっています(以前は違いました)。
創業融資を受けるにおいて「目的」の内容が重要です。時々「とりあえず書けるだけ書いてみた」みたいな定款がありますが、「実態がないもの」、「不透明な事業」はマイナス要素となります。金融機関から「この事業は、具体的にどのようなものを想定しているのか」と聞かれた場合、きちんと答えられる範囲に止めておいた方がいいでしょう。
会社の本店所在地
絶対的記載事項です。
定款では東京都中央区で足りますが、登記する際には番地まで必要になります。ただ、登記する際もビル名までは特定しなくて大丈夫です。将来会社が大きくなるにしたがって、事務所も広くするため、市中心部に進出したりするため、本店が今後何度か変わる可能性があるという場合、取りあえずは自宅住所を本店所在地として、ある程度会社の規模、業績が定まってきてから、本店所在地を移転するということを考えても良いでしょう。
機関設計に関する規定
株式会社の場合取締役は必須ですが、取締役は一人でも良く、取締役会、監査役を設置するかどうかは、自由に決めることができます。もっとも、大会社は監査役が必要となり、会社の全株式を自由に譲渡できるとする公開会社は取締役会と監査役が必要です。
株主一人だけという会社であれば、取締役を一人決めるだけでもいいでしょう。しかし、株主が複数いる場合は、取締役が一人だけだと、少数株主の利益が守られないため、株主総会の権限を強化しています。
少数株主は、どういう機関設計をすれば、自分の株主としての権利を守ることになるか、多数株主はどういう機関設計をすれば、自分の思い通りの経営を可能にするかを考え、そのせめぎ合いの結果が定款になるのです。取締役会、監査役を設けた方が、創業融資を受ける点でプラスになるかというと、そういうことはありません。
無駄に機関設計が複雑だったり、「とりあえずこうしてみた」的なものに対して、金融機関は良い印象は持たず、逆に質問責めにあうことになります。どのような機関設計であれ、そのような機関設計にしたことについて説明できることの方が必要です。
公告方法
会社法は、一定の事由については公告をするよう義務付けているため、その公告方法を定める必要があります。公告を行うものの中で、どの会社にとっても身近なのは、計算書類(貸借対照表、損益計算書、 株主資本等変動計算書及び個別注記表)の公告でしょう。
公告方法は①官報、②日刊新聞紙(時事を報道するものに限る)、③HP(ホームページ)の3つに限られています。中小企業の場合、費用の安い①官報を利用する会社がほとんどでした。 HP公告は、平成17年2月から認められた新しい制度ですが、あまり利用されていません。というのも、HP公告の場合、その全文を5年間継続して公告する必要があるからです。 官報、日刊紙の場合、その要旨を、1回だけ、公告すれば足りますから、それに比べてHP公告は、その全文を載せなければならず、かつ、5年分が常に掲示されている形になります。こうなると、会社の財務状況が、取引先に対しても丸裸になってしまうため、好まれないのです。
株式に関する規定
1.発行可能株式総数
設立時の発行株式数と、発行可能株式総数(会社設立後定款を変更することなく発行できる株式総数)を決めてください。前者は定款に記載する必要はありませんが、後者は定款に記載する必要があります。
2.株式譲渡制限の規定
中小企業の場合、株式に譲渡制限をかけ、会社にとって(現株主にとって)不利益となる株主が入ってくるのを好まないのが普通です。ライバル企業が株式を取得して、乗っ取りを図ったり、企業秘密を探ろうとしかねないからです。また反社会勢力や、経営理念の違う人間がはいってくるのも防ぎたいでしょう。
ただ、少数株主には救済規定が必要です。少数株主が、多数株主の経営に不満を持ち、株式を売って会社から離脱しようにも、その売買が承認されないということがあるからです。そのため、会社は当該譲渡を承認しない場合には、譲渡株主等から請求があれば、会社ないし会社が指定する者が代わりにこれを買い受けることになっています。
債権譲渡を承認するのは取締役会、取締役会ない場合は株主総会ですが、定款で代表取締役とすることもできます。
3.売渡請求
相続ないし合併の場合(一般承継)、譲渡制限の対象とならないため、現経営陣にとって好ましくない者が株式を取得する可能性があります。そう言った事態に備えて、会社が、相続人ないし合併した会社に対し、当該株式を売渡すよう請求することができる旨定款に定めておくことができます。
ただし遺言がないと、株式は相続人全員の共有となります。このとき、第三者が残りの株式の過半を有していた場合、売渡請求の結果、相続人全員が売渡請求により株式を失う可能性があります。売渡請求規程を定款上定める場合は、適切な相続対策をしておかないと大変なことになります。
4.株券発行に関する規定
かつては株券発行が原則で、発行しない場合はその旨定款に定めることとしていたが、現在は株券不発行が原則で、発行する場合はその旨定款で定めることとなっています。
5.株式譲渡制限と授権株式
株式譲渡制限のない株式会社を公開会社と言いますが、公開会社の場合、発行可能株式総数に達するまで、取締役会決議で適宜増資できることになります。発行可能株式総数は設立時発行株式総数の4倍を超えることができないとして、増資できる株式数に制限を加えていますが、逆にその制限範囲内での自由な増資が認められているのです。
例えば、Aが51株、Bが49株で合計100株を設立時に発行し、発行可能株式総数を400株と定款で定めたとします。会社設立時、Aは単独で定款を変えられませんが、いざ設立後、取締役を自分の味方で固め、取締役会決議で残り300株を発行し、Bに資力がなければ、Aが株を買い増しして絶対的多数を占め、定款変更も単独ですることも可能になります。
株主総会に関する規定
1.基準日
「会社の定時株主総会の議決権の基準日は、毎月3月31日とする。」というように、基準日における株主に定期株主総会の議決権を与えるのが便宜である。
2.株主総会の招集権者及び議長
株主総会は各取締役が招集権を有するが、通常「(代表)取締役社長がこれを招集し、議長となる」と定めることが多い。取締役が一人の場合は、こうした定めは不要である。そもそも株主が一人しかいない場合は株主総会招集規定、不要であるが、後日株主が増える可能性があれば、その時のために予め決めておくこともありうる。
取締役社長に事故があった場合の規定も設けておくのが安全である。
3.株主総会の決議方法
株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う、とある。したがって、定足数を3分の1にしたり、さらには、完全に廃止することも可能である。しかし、その場合「法令又は本定款に別段の定めがある場合を除き、出席した議決権を行使することのできる株主の議決権の過半数をもって行う。」として、法令に別段の定めるある場合は除くということを書いておくこと。書かなくても、結果は同じだが、書いておく方が良いだろう。
また、法定の一定の重要な事項に係る株主総会の決議は「(議決権株主の)議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。」と規定されているが、これが特別決議とよばれるものである。特別決議が必要な事項は309条2項に列挙されている。
複数株主がいる場合は、定足数不足で総会が流会にならないよう、定足数を決めず、あるいは少なくしておいた方がいいだろう。
4.議決権の代理行使
議決権を株主に限るように規定しておく方が良いだろう(「他の株主一人を代理人として」というように代理人は一人に限るべきである。)。株主以外の第三者が委任状を利用して議事に加わることは議決を混乱させるし、会社の利益を害する恐れもあるからだ。代理人資格の証明方法、代理権の証明方法(実印を押印した委任状を印鑑証明書)を、定めておくことが便宜だが、必ずしも定款に規定する必要はなく、社内規定を別途作って対処することも可能であるし、その方が柔軟に変更できるからよいだろう。
取締役および取締役会に関する規定
1.員数
取締役の員数については「何人」と定めず、「●人以内とする」と定めた方が良いだろう。例えば役員の員数を3人と決めてしまうと、一人辞任する人間が出ても、その者の代わりの者を就任させなければ、いつまでも退任登記ができないということになるからである。 取締役会がある場合は、取締役は3人以上でなければならない(合議体を形成するには2人以上必要であり、可否同数のことを考えれば奇数が良い。3人以上というのがその双方の要請を満たす最小人数である。)。
2.役員選任決議要件
役員選任または解任については「(議決権株主の)議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならない。」との規定がある。定足数を3分の1とする要件緩和規程を設けておく方が良いだろう。
取締役の選任決議は、累積投票によらないものとする旨定款に定めておいた方が良い。この点を定めないと、累積投票と言って、役員3人のうち、一人に3票入れることができることになり、役員会が社長派、反社長派に分かれてもめることになる。
3.取締役の任期
取締役の任期は2年であるが、公開会社でない株式会社は任期を10年と定めることができる。
4.代表取締役及び役付専務
定款上「取締役会は、その決議によって、取締役会長、取締役社長各1名、取締役副社長、専務取締役、常務取締役を定めることができる。」と規定されることが多いのですが、こうした肩書の着いた取締役を役付取締役といいます。
注意すべきは会社法第354条が「株式会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有する者と認められる名称を付した場合には、当該取締役会がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う」と定めていることです。
条文上に掲げてある社長、副社長のほか、取締役会長、専務取締役、常務取締役などという名称を許していたが、代表権がないという場合、これらの取締役を表健代表取締役と言い、この者が会社を代表して、善意(ここでいう「善意」は、表健取締役に代表権がないことを「知らなかった」ということ)の第三者と締結した契約は有効になってしまうのです。
ですから、安易に役職名を与えないようにする必要があります。
5.取締役会の招集権者、議長、招集手続
取締役会の収集通知は、1週間前に各取締役に対して行う必要がありますが、定款の定めによってこれを短縮することができますので、短縮する規定を置いた方が良いでしょう。 全員の同意があるときは、招集手続きなしに、その場で取締役会を開くことができます(定款への記載は不要だが、確認的に規定してもよい)。中小企業の場合、実際はこうした取締役会の方が多いでしょう。
会社法363条2項に「(代表取締役は)3か月に1回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならないとありますから、3か月に1回取締役会を開く必要があります。
6.取締役会決議
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う、とされています。定款で、取締役会の定足数、議決要件を厳しくすることはできますが、緩和することはできません。この点株主総会と違いますのでご注意ください。
定款に書面決議を認める記載をし、かつ、以下の要件がそろっている場合は、敢えて会合せずに、書面ないしメールで決議をすることができます。
- 議決に加わることができる取締役全員が、書面、電子メール等による議案決議に同意している
- 業務監査権限を持つ監査役が、その提案について異議を述べていないこと
7.取締役の任務懈怠による損害賠償責任の限定
取締役が2名以上の監査役設置会社または委員会設置会社は、取締役会の決議によりその役員等の任務懈怠による会社に対する損害賠償責任を一部免除することができる旨を定款で定めることができます。第三者に対する賠償責任は当然限定されません(社内の規定で社外の権利関係を規律することができないのは当然です)。
監査役、監査役会に関する規定
1.監査役の員数・選任方法・任期、監査役会の収集手続
定款で監査役について下限を定めない方が良いこと、監査役の選任決議につき定足数を軽減する規定を置いた方が良いこと、賠償責任限定規定を設けることができること、監査役の招集手続を軽減できること、取締役の場合と同様です。
2.監査役の役割
監査役の本来の職務は、業務監査と会計監査ですが、全株式が譲渡制限となっている会社では(監査役会、会計監査人設置会社は除く)、定款で完済の範囲を会計監査に限定することが可能です。
計算に関する規定
1.事業年度
会社の収支決算を何月末締めにするかを決めます。税理士さんから、決算期が集中すると大変なので、3月末からずらしてくれ、と頼まれることもあります。期末から2か月以内に確定申告する必要があります。
2.剰余金の配当の基準日
配当の基準日の2週間前までに、株主が基準日に行使できる権利内容を公告しなければならないが、定款で基準日を定めておけばその必要はなくなります。
3.剰余金の除斥期間
剰余金の除斥期間を「配当財産が金銭である場合は、その支払いの開始日から満3年を超えても受領されないときは、当会社はその支払い義務を免れる」と定款で定めると良いでしょう。
資本金
以前は、資本金は株式発行価格でしたが、今はそのようなしばりはありません。自由に金額を決められる訳ですが、自由と言われても決めかねる、ということで株式発行価格を資本金としていることが多いようです。
資本金が大きくなると大企業に分類されて不利益が生じることがあります。
1.中小企業基本法
製造業3億円以下、卸売業1億円以下、小売業5000万円以下、サービス業5000万円以下であれば、中小企業に分類されます。中小企業に分類された方が、様々な保護施策を受けられる可能性があります。
2.法人税
資本金3千万円と1億円の2点が大きく取り扱いが異なる分岐点となっています。資本金3千万円以下とすると税務面でメリットがあります。
3.消費税
消費税では、資本金1千万円未満の場合、最低1年間免税事業者となれます。したがって、資本金1千万円未満とすると税務面でメリットがあります。
4.登録免許税
登録免許税は、資本金2143万円までは登録免許税は15万円ですが、これを超えるとその額の1000分の7となります。
以上より、資本金の上限は 1000万円未満とするのが、一番有利になります。
ただ、資本金は少なければ良いという訳ではありません。資本金とは、銀行融資に頼らずに済む自己資本がどのくらいあるかという問題です。創業融資も含めて、当面の資金繰りはまかなえる程度必要ということです。今後3ヶ月程度の資金繰りを固めに見積もって、それがどのくらいの金額になるかを考えましょう。
現物出資、財産引受、設立費用等
金銭でなく、不動産や商品等を出資する現物出資、設立後財産の譲受を約束した財産引受、会社財産から発起人に対して支払うべき立替費用・報酬ある場合、それは定款に規定する必要がある。
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