人事・労務 - 休職・復職

休職・復職について休職の手続き、休職中の給与と復職のサポート

休職制度

労働基準法において休職制度の定めはなく、単に就業規則の任意的記載事項(記載するか否かは会社の裁量とされる)とされているにすぎませんが、就業規則には休職規程が置かれているのが普通です。
なお、業務上の傷病による休業の場合、労基法19条1項により、解雇が制限されていますのでご注意ください。

休職命令の可否

就業規則上、休職は、従業員からの申請か、会社の休職命令権という形で開始します。従業員が心身の不調で本来業務に耐えない場合、解雇事由になるのですが、休職している間は解雇の恐れがないため、解雇猶予措置としての意味合いがある一方で、休職中は無給となるため(傷病手当は別として)、不利益処分としても意味合いもあります。そのため、無制限の自由裁量は認められておらず、合理性のない休職命令は無効となります。
職種や業務内容を特定せずに雇用されている従業員に対し休職を命ずる場合は注意が必要です、建設会社がバセドー氏病にかかった従業員が従来就いていた現場監督業務ができなくなったとして、休職を命じたところ、休職命令の有効性が争われた事案で、最高裁は、「現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。」として、事務職への配転もせずにした休職命令を無効としました。
休職命令を出した根拠を、後日、客観的に示すことができるように、本人の勤怠状況、同僚・上司の報告書等を残しておくことが必要です。

休職規程の必要性

精神疾患を発症していることを知りながらそのまま勤務を継続させ、その結果、業務に起因して症状を悪化させた場合、会社が安全配慮義務違反を問われます。そうならないように休職命令を設ける必要があるのです。

休職命令を経ずにした解雇の有効性

被害妄想から同僚から嫌がらせを受けていると信じ込み、嫌がらせが解消するまで出社しないとして欠勤を続けていた従業員を解雇(諭旨退職)したという事案で、最高裁は「精神科医による健康診断を実施するなどした上で、その診断結果等に応じて必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、被上告人の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとは言い難い。」として、当該解雇処分を無効としました(ヒューレットパッカード事件)。本件は、本人に 病識がない事案でしたが、それでも診断を実施し、場合によっては休職処分を検討すべきとしました。
傷病の内容からして、労働能力が回復する見込がないという事案では、休職命令を経ずにする解雇処分も有効でしょうが、精神的疾患の場合、回復の見込みがないと判断される例は殆どないと思われ、なかなかこれを理由に有効性を主張するのは難しいでしょう。

受診命令

精神疾患を疑われる従業員に対して、精神科・心療内科に行って診断書をとってくるように言っても、本人に病識がない場合も多く、そうなれば「俺を気違い扱いするのか」とくってかかられるのが落ちです。本人に病識があったとしても、精神科または心療内科に行くのは恥ずかしいという気持ちもあるため、応じないというケースもあります。
そのため、就業規則に「従業員が次の各号のいずれかに該当する場合、会社は従業員に対し、会社の指定する医師の健康診断を受けさせることがある。なお、これは業務上の必要性に基づくものであるため、従業員は正当な理由なく、これを拒むことはできない。①傷病による欠勤が連続7日間を超える場合、②長期の傷病欠勤後出勤を開始しようとする場合、③傷病を理由にたびたび欠勤する場合、④傷病を理由に就業時間短縮又は休暇、職種若しくは職場の変更を希望する場合、⑤業務の能率、勤務態度等により、身体又は精神上の疾患に罹患していることが疑われる場合、⑥海外への勤務に従事する者で、健診の必要のある場合、⑦その他、会社が必要と認める場合」といった条項を定めておく必要があります。受診命令を拒否した場合は懲戒処分の対象となることも就業規則で定めておいた方がいいでしょう。
休職中、復職を願い出てきた社員に、回復の程度を判断するため、受診を命ずる必要もありますので、その場合もカバーできるように、上記の規定では②を入れています。

休職申請書

休職命令により休職させるより、本人から休職申請書を提出してもらい、その上で休職命令を出すのがベストです。解雇するより、退職届を出してもらった方がいいのと同じ理屈で、後日休職命令が争われるのを防ぐのが目的です。
どれだけの期間休職すれば退職扱いになるのかを明らかにする意味でも、休職届に休職期間を書く欄を設けておいた方がいいでしょう。

休職期間中の給与等

休職期間中、給与を支払う義務はありません。公務員は半分支払われるようですが、民間の場合、その必要はありません。但し、社会保険の支払いが発生します。社会保険の会社負担分だけ支払うということはできないので、本人負担分も併せて支払うことになります。当然、立替ということになり、本人に請求することはできますが、会社にとっては負担です。

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職場復帰支援

精神症状により休業した従業員の職場復帰をどう支援するかについて、厚労省は「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を作成し、その手順を具体的に示しています。最近の裁判例でもこの手引きが引用されており、復職の可否等が争われた場合に、会社がこの手引きに沿った手順を踏んでいるかが問われるようになっています。手引きは復職まで5つのステップを踏むことを推奨しています。
同手引きは 平成16年10月に初板が作成され、平成21年3月、平成24年7月と2回の改訂を経て、現在に至っています。

<第1ステップ>
病気休業開始及び休業中のケアの段階であり、「労働者からの診断書(病気休業診断書)の提出」、「管理監督者によるケア及び事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、「病気休業期間中の労働者の安心感の醸成のための対応」及び「その他」で構成される。

<第2ステップ>
主治医による職場復帰可能の判断の段階であり、「労働者からの職場復帰 の意思表示と職場復帰可能の判断が記された診断書の提出」、「産業医等による精査」及び「主治医への情報提供」で構成される。

<第3ステップ>
職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成の段階であり、「情報の収集と評価」、「職場復帰の可否についての判断」及び「職場復帰支援プランの作成」で構成される。

<第4ステップ>
最終的な職場復帰の決定の段階であり、「労働者の状態の最終確認」、「就業上の配慮等に関する意見書の作成」、「事業者による最終的な職場復帰の決定」及び「その他」で構成される。

<第5ステップ>
職場復帰後のフォローアップの段階であり、「疾患の再燃・再発、新しい問題の発生等の有無の確認」、「勤務状況及び業務遂行能力の評価」、「職場復帰支援プランの実施状況の確認」、「治療状況の確認」、「職場復帰支援プランの評価と見直し」、「職場環境等の改善等」及び「管理監督者、同僚等への配慮等」で構成される。

主治医との認識を共通にする重要性

復職の可否を決定する判断資料の最たるものは主治医の判断ですので、主治医との間に共通認識を持つことが不可欠です。それを欠いたまま、漫然と主治医に意見を求めても、主治医からの意見も漫然としたものになってしまい、結局、復職の判断材料としては用をなさないことになりかねません。
また、より円滑な職場復帰支援を行う上で、職場復帰の時点で求められる業務遂行能力はケースごとに多様なものであることから、あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力の内容や社内勤務制度等に関する情報を提供した上で、就業が可能であるという回復レベルで復職に関する意見書を記入するよう依頼することが必要です。そのため、主治医に対し、①会社の事業内容・事業特性、②従業員の職位・職種・職務内容・勤務時間、③職場環境(人的環境、誰の支援を受けられるか、心身の負担を生ずる内容があればその旨を特記)、④支援責任者の職位及び氏名・休職期間・休職中の給与・職場復帰の基準、復職後における配慮可能な事項と配慮不能な事項を記載した書類を、本人を通じて、主治医に出してもらうことが有用です。
休業期間が長い場合は、何カ月おきかに、本人の承諾を得て、医師と面談し、診断書病名、症状、現在の症状、回復状況、治療経過、治療継続の必要性、今後の見込み、就業の可否を聞くこともありえますし、それを情報提供書にして提出してもらうのも良いでしょう。ただ、5000円~1万円ほどの料金を請求され、これは会社負担になります。
復職を検討する段階では、人事担当者、直属の上司、本人、主治医との4者面談の開催も検討してみてください。
審査の時間も必要なため、復職希望日の2週間前までには、本人作成の復職願い、主治医作成の情報提供書を、会社に提出させます(提出先も決めておきましょう。)。

試し出勤

以下のような、試し出勤をさせ、その結果を見て、検討するということも有用です。

  1. 模擬出勤
    職場復帰前に、通常の勤務時間と同様な時間帯において、短時間又は通常の勤務時間で、デイケア等で模擬的な軽作業やグループミーティング等を行ったり、図書館などで時間を過ごす。
  2. 通勤訓練
    職場復帰前に、労働者の自宅から職場の近くまで通常の出勤経路で移動を行い、そのまま又は職場付近で一定時間を過ごした後に帰宅する。
  3. 試し出勤
    職場復帰前に、職場復帰の判断等を目的として、本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する。

また、産業医がいる場合は、産業医との連携が必要になります。人事担当者、直属の上司、産業医との間で、復帰後の就業状況をどのようにするか、時間外勤務、交替勤務、休日勤務、出張を禁止するか、一定限度の制限を加えるか、就業時間を短縮するか/するとして遅刻と早退の何れにし、何時間とするか、作業内容を転換するか、配置転換・異動を考えるか等協議し、産業医から意見書として主治医に出してもらう必要があります。

復職後の処遇

数か月にわたって休業していた労働者に、いきなり発病前と同じ質、量の仕事を期待することには無理があります。このため、休業期間を短縮したり、円滑な職場復帰のためにも、職場復帰後の労働負荷を軽減し、段階的に元へ戻す等の配慮は重要な対策となります。
短時間勤務を採用する場合には、適切な生活リズムが整っていることが望ましく、始業時間を遅らせるのではなく終業時間を早める方が良いでしょう。
このように、就業上の配慮の個々のケースへの適用に当たっては、どのような順序でどの項目を適用するかについて、主治医に相談するなどにより、慎重に検討するようにすることが望ましい。具体的な就業上の配慮の例として以下のようなものが考えられる。

  • 短時間勤務
  • 軽作業や定型業務への従事
  • 残業・深夜業務の禁止
  • 出張制限(顧客との交渉・トラブル処理などの出張、宿泊をともなう出張などの制限)
  • 交替勤務制限
  • 業務制限(危険作業、運転業務、高所作業、窓口業務、苦情処理業務等の禁止又は免除)
  • フレックスタイム制度の制限又は適用(ケースにより使い分ける。)
  • 転勤についての配慮

就業規則

21年改定版手引きに基づいて作成されたパンフレットですが、休職・復職についての就業規則のモデル条項が紹介されていますので、ご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/101004-1.pdf

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