債権回収

債権回収と時効債権回収には時効があります。

2020年3月31日実施の改正民法では、協議を行う旨の書面の合意があった場合の時効の完成の猶予、権利行使をできることを知ったときから5年での時効、定期金の消滅時効の起算点の変更、短期時効の制度の廃止され、生命・身体に対する不法行為を理由とする損害賠償請求権の時効が、被害者が損害・加害者を知った時から「3年」だったものが、「5年」への変更、商事時効の廃止等が定められました。下記解説は上記法改正を反映しておりません。現在、内容の改定を準備中です。

Q1:時効になった債権の支払を求めて訴訟提起することは許されますか?

許されます。

契約は守られなければならない、というのが契約社会の大原則ですから。時効というのは、不道徳な一面を持っています。

そのため、時効を主張するか否かは、その良心ないし判断に任せるべく、時効が成立しても当然に法的効果を生ずるものではなく、時効を主張することにより初めて時効の法的効果が発生することします。これを時効の「援用」と言います。

Q2:10年以上前にした借金について訴訟を提起されましたが、長期間留守にしていたため、一か月前、私の知らないうちに判決が出てしまいました。改めて時効を援用できますか?

できません。

住民票を置いておきながら、そこに住んでいなければ、本人欠席のまま判決が下されてしまいます。こうして、一度判決が下され、確定した以上、その後争おうとして訴訟を起こしても、裁判所は一度出た判決に矛盾する判決はできないことになっています。これを「判決の既判力」と言います。ですから、もはや時効を主張して当該判決の無効を争うことはできません。

Q3:債権の時効期間は10年と決まっているのではないですか?

会社は商法上の商人にあたるため、会社がその営業のためにした取引上の債権は5年で時効になります。そのほかにも小売ないし卸売業者の買掛金は2年で時効になりますし、取引ごとに時効期間を精査する必要があります。例えば5年で時効にかかるとしても、5年という時効期間はいつからスタートするのかも、取引の態様によって違ってきます。

Q4:債権者、主債務者が個人、保証人が会社という場合、保証債務は商事債務として時効期間は5年と言うことになるのでしょうか。債権者ないし主債務者が会社で、保証人が個人という場合、保証債務は商事債務として時効期間は5年と言うことになるのでしょうか。

どちらも商事時効(商法522条)になります。会社は商法上の商人に当たりますから、会社の行う行為は附属的商行為となります。前者の場合は、保証契約は債権者と保証人との契約で成立するもので、保証人が会社の場合、附属的商行為として保証契約を締結したのですから、保証債務は商事債務として5年で時効にかかります(大審院昭和13年4月8日付判決)。後者の場合、主債務が商事債務として5年で時効になるならば、民法448条により、保証債務も5年で時効になります。

因みに非商人が商人にお金を貸しても、商人が非商人にお金を貸しても、何れも商行為に当たり5年で時効になります。

Q5:信用金庫、信用組合から借りたお金は何年で時効にかかりますか?

株式会社等の会社は商人といえますが、信用金庫、信用組合は商人に該当しないため、一見、一律10年で消滅時効になりそうです。しかし借りたのが、商法上の商人であれば、5年の商事時効が適用されます。

Q6:商事債権について、主債務者に対して確定判決を得た場合、保証人の時効期間は10年間に延びますか?逆に、保証人に対して確定判決を得た場合、主債務者の時効期間は10年間に延びますか?

主債務者に対して確定判決を得た場合、保証人の時効期間は10年間延びます。逆に、保証人に対して確定判決を得た場合には、保証人の時効期間は10年間延びますが、主債務者の時効期間は従前のままです。ですから、保証人について確定判決をとっても、主債務について5年の消滅時効が完成してしまえば、付従性により保証債務も消滅してしまいます。ですから、債権管理上、主債務者と保証人の双方を被告として訴訟を提訴することが必要です。

Q7:和解した場合、時効期間は10年間に延びますか?

延びるという判例と、延びないという判例の両方があります。前者が多数的見解ですが、債権管理上は、10年間に延長されない可能性があるという前提で時効管理する必要があります。

Q8:請負人の瑕疵担保責任の存続期間(1年)の起算点はいつですか?

請負の成果物に瑕疵があれば、その修補又は損害賠償の請求及び契約の解除請求権が発生します。この担保責任については「仕事の目的物を引き渡した時から1年以内にしなければならない。 」との規定(民637)がありますが、これは法的には時効ではなく、担保責任の行使期限を定めたものです。

ですから、担保責任をいったん行使し、損害賠償請求権が発生した後は、同債権は10年間の時効期間に服します。ただ、こうした請負契約の場合、引渡後、検収に合格してはじめて請負代金を請求できるのが普通ですから、こうした場合には検収合格時に起算点が到来します。

Q9:債務者が死亡し、相続人全員が相続放棄をした場合、時効は進行しますか?

相続人原因が相続放棄した場合、利害関係人の申立があれば、相続財産管理人が選任されます。その段階で初めて債権者は債権を行使することができます。そのため、債務者死亡後、相続財産管理人が選任されるまでの間、時効は進行しません。

Q10:第2順位の抵当権者が、第1順位の抵当権の被担保債権の時効を援用できますか?

できません。確かに第1順位の抵当権の債権が時効で消滅すれば、第2順位の抵当権者の受ける配当額は増えますが、それは順位上昇によって得られる反射的利益に過ぎないからです。

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Q11:売買代金が未払いのまま2年がたちそうです。消滅時効が完成するのを防ぐにはどうしたらいいのでしょうか?

民法147条は、「請求」「差押え、仮差押え又は仮処分」「承認」の3つを時効の中断事由としており、この何れかが発生すると、時効は一度そこでストップし、時効期間は再スタートなります。設問でいえば、中断事由が発生すれば、そこからさらに2年間経過しないと、173条1号所定の2年間の短期消滅時効が完成しないのです。

ここでいう「請求」は、訴訟のことを言います。よく請求書をずっと送り続けていれば時効にはならないと誤解している人がいますが、単に文書や口頭での請求は、民法上「催告」に該当しますが、中断事由としての「請求」には含まれません。

ただ、催告後6ヶ月内に訴訟等を提起すれば、その間に時効期間が経過しても、時効は完成しません。債務の支払は「承認」として時効中断事由になります。

Q12:損害賠償の請求原因を債務不履行から不法行為に変更したら、提訴当時の中断効はそのまま残りますか?

損害賠償の請求原因を、不法行為から債務不履行に変更することは、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を取り下げ、債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟を新たに提起することになります。

訴訟提起の場合、訴状を裁判所に提出した時点で時効は中断しますが、訴えの取り下げにより中断効は失われます(民149)。もし旧訴訟を取り下げたことでその中断効が失われるとすると、債務不履行責任であれば時効中断はできていたのに、不法行為に主張を切り替えた段階で時効が完成したなどということもありえます。

判例は、境界確定訴訟を所有権確認訴訟に切り替えた事案で、当初の時効中断効は失われないとしました。この判例がこの事案にも当てはまれば、この事案についても「中断効は失われない」ということになります。

Q13:抵当権設定登記抹消請求訴訟において、被告が被担保債権の存在を主張することは同債権の時効を中断しますか?根抵当権設定登記抹消請求訴訟の場合はどうなりますか?

抵当権設定登記抹消請求訴訟の場合、被告勝訴判決は被担保債権の存在を明らかにするものですから、中断効を生じます。しかし、根抵当権請求訴訟で被告が勝訴しても、それは被担保債権の存在を意味することになりませんから(その時点で被担保債権が存在しなくても被告勝訴はありえます)、中断効は生じないのです。もっとも根抵当権が確定すれば、中断効は生じます。

Q14:支払督促を行っても、時効中断が生じない場合がありますか?

支払督促が時効中断事由になることは法文上明らかであり、申請時に中断効を生じるという点も争いはありません。ただ、債権者が所定の期間内に仮執行宣言の申立をしないことによりその効力を失うときは、時効の中断の効力を生じません。 さらに、相手方に対する送達ができなかった場合には、中断効を生じないというのが判例です。

Q15:動産執行したものの執行不能になった場合、時効中断の効力は生じますか?

差押の場合「権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたとき」は、時効の中断の効力を生じないことになっています(民154)。執行不能が債務者の所在不明が原因の場合は、時効の中断の効力は生じませんが、差押えるべき動産がなかったことが原因の場合は、時効の中断の効力は消滅しません。債権執行でも同様であり、差押債権が存在しなかったため執行不能になっても中断の効力は消滅しません。

Q16:競売開始決定が無剰余取消になった場合、時効の中断はどうなりますか?

第2順位の抵当権者が競売を申し立てても、不動産の買受可能額が、第1順位抵当権の被担保債権額を下回るような場合、裁判所は競売手続を取り消しますが、これを無剰余取消といいます。この場合にも、差押の中断効を認め、取消決定の翌日から時効が進行するとした判決と、そもそも中断効を生じないとする判決の双方が存在します。したがって、その場合は被担保債権につき訴訟を提起して、時効中断すべきです。

Q17:執行手続に配当要求をした時は、時効中断の効力を生じますか?

時効の中断の効力は生じます。ただ、その根拠をどこに求めるかについては、民法147条の請求に該当するという見解、民法152条の破産手続参加を類推するという見解、民法154条の差押等に準ずるという見解に分かれています。

競売手続に配当要求したところ、競売申立が追加手続費用不納付を理由に取り消された場合については、配当要求が不適法であった訳ではなく、民法154条を準用して中断効が失われるとすべきではない、とする最高裁判例があります。

申立債権者が競売申立を取り下げた場合には、反対学説が有力ですが、同最高裁判例からすれば、中断効が存続するという結論も十分ありえます。

Q18:主債務者が行方不明です。連帯保証人に訴訟を提起したら時効を中断できますか。連帯保証人が返済を行った場合、連帯保証人の財産を差し押さえた場合はどうでしょうか。

連帯保証人に訴訟を提起した場合は時効中断を生じます。なぜなら、連帯保証人の責任を定める民法458条が、「履行の請求」の絶対効を定める同434条を準用しているからです。催告の効力も同様です。他方、連帯保証人が弁済をしても、連帯保証人の財産を差押えても、主債務について時効は中断しません。

なお、連帯保証人の時効が成立していなくても、主債務の時効が完成すれば、連帯保証人は主債務の時効を援用でき、その結果主債務は消滅し、「保証の付従性」の結果、保証債務も消滅します。

Q19:主債務者たる会社が事実上倒産し、連帯保証人たる代表取締役が個人名で振り込んできています。この場合、会社の債務の時効は中断しますか。

商法504条には「商行為の代理人が本人のためにすることを示さないで、これをした場合であっても、その行為は本人に対してその効力を生じる。」と規定されています。弁済は法律行為ではなく、準法律行為に過ぎませんが、学説は弁済についても同条の適用があるとしているようです。したがって、代表取締役の弁済の効果は、主債務者である会社に対しても生じ、主債務についても時効が中断すると考えてもよさそうです。

Q20:連帯保証人との間で、保証債務を旧債務とする準消費貸借契約を締結した場合、主債務の時効は中断しますか。

中断する可能性もあります。保証債務の付従性が、準消費貸借債務にも引き継がれるという見解と、引き継がれないという見解とに分かれています。こうした処理をするのは、売掛債権が2年の短期消滅時効にかかるため、準消費貸借上の債務に切り替えれば5年に時効期間が伸長すると考えてのことでしょう。

時効期間伸長をめざすのであれば、むしろ訴訟を提起した方が、上記争点もなく、判決ないし和解により、10年に時効期間が延びますので、そちらの方が有効でしょう。

Q21:解除権の時効の起算点はいつですか?何年で時効にかかりますか?解除に基づく損害賠償請求権、原状回復請求権はいかがなりますか?

解除権を行使したときから、10年で時効にかかります。解除に基づく損害賠償請求権、原状回復請求権も、解除権行使時から10年で時効にかかります。

Q22:借家の賃料の長期延滞を理由とする契約解除権の消滅時効の起算点はいつですか?

賃貸借契約の解除権は一度の賃料不払いの結果発生するものでなく、信頼関係破壊に基づき発生するものですから、継続した地代不払を一括して一個の解除原因と考え、賃貸借契約の解除権の消滅時効は、最後の地代の支払期日が経過した時から進行します(最高裁昭和56年6月16日判決)。

Q23:30年ほど取引している売掛先で、代金の滞納が慢性化しています。既に3年分滞納しています。遅れ遅れで払ってきてはいるのですが、時効の心配はありませんか。

例えば平成23年12月に、平成20年1月分の代金を払ってきたとします。通常売掛金は2年の短期消滅時効にかかりますから、その場合、平成20年2月分から11月分の代金は時効になってしまっている可能性があります。

最後の代金支払いから2年経っていないからという訳には行きません。ですから、2年経つ前に、延滞分を旧債務とする準消費貸借契約を締結し、時効を中断するとともに、時効期間を5年間にのばしておくことが必要です。

それができない場合、次善の策として、毎月の請求書に、延滞金額全体を記載し、そのうちいくらを払うようにと記載しておくことです。ただ準消費貸借の方法の方が安全です。

Q24:利息の支払があれば、元本についても時効が中断しますか?元本についての支払があれば利息についても時効が中断しますか?

利息の支払があれば、元本債務についても時効が中断します。ただ、意思解釈として、利息を支払ったということは、元本についても承認したものと解しうるという意思解釈に基づいての判断であり、元本についても承認した旨明示した書面を作成することが望ましいです。

元本についての支払があった場合、利息についても承認したとみなされる場合もあるでしょうが、元本に充当していく内入れ弁済の場合、意思解釈として利息についても承認があったと解すべきか、疑問も残ります。やはりこの場合も、元本債務を承認した旨明示した書面を作るべきでしょう。

次善の策としては、領収証に未払い利息額を明記しておくか、内入れ弁済の和解をした際に、「元本完済後に行われた弁済は、未払い遅延損害金、未払い利息の順に充当するものとする」、「元本完済に前に行われる弁済は、元本債務のみならず、遅延損害金及び利息についても承認したものとみなす」という規定を置くことが考えられます。

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