日弁連「債務整理事件処理の規律を定める規程」について

2011年2月9日、日本弁護士連合会(日弁連)が「債務整理事件処理の規律を定める規程」というルールを制定しました。 債務整理や過払い金返還請求を検討されている皆様は、どのような内容なのか、ご自分が依頼するときはどういう影響を受けるのか、気になることと思います。 法律事務所ホームワンは、依頼者の皆様へこのルールをご説明します。

「規程」に関するQ&A

「債務整理事件処理の規律を定める規程」のポイントについて、日弁連の解説をもとに、ご説明します。 ご相談、ご依頼の際の参考としてご覧ください。

「規程」とは?

Q.
「規程」の目的とは?
A.
「規程」第一条で、目的が定められています。
それによると、「債務整理事件について、一部の弁護士(弁護士法人を含む。第七条を除き、以下同じ。)によって不適切な勧誘、受任及び法律事務処理並びに不適正かつ不当な額の弁護士報酬の請求又は受領がなされているとの批判があることにかんがみ、臨時の措置として、債務整理事件の勧誘、受任及び法律事務処理に関して弁護士が遵守すべき事項を定めるとともに、主として過払金返還請求事件における弁護士報酬の額を適正化し、もって弁護士に対する国民の信頼の確保及び依頼者の利益の擁護を図ることを目的とする」とされています。
Q.
「規程」の内容は?
A.
これらのことが定められています。
・直接面談の原則(第三条)
・事件処理方針等及び不利益事項の説明(第四条)
・過払い金返還請求のみの受任の原則禁止(第八条)
・弁護士報酬の規制(第九条~第一六条)
・事件処理の報告(第一七条)
・広告の規制(第一八条)
Q.
いつまで適用される?
A.
「債務整理事件処理の規律を定める規程」の有効期間は、2011年の制定時には5年間の時限規制とされていましたが、2015年に10年以内(2021年3月末まで、条件付きで失効)と変更されました。

面談・ヒアリングについて
(直接面談の原則、不利益事項の説明など)

Q.
受任する予定の弁護士が事情聴取を行うのが原則だそうですが?
A.
「規程」の第三条では、受任弁護士が債務者に自ら個別に面談して事情聴取をすることを、原則として義務付けています。 事情聴取を受任弁護士が行うべきとしたのは、受任を予定しない弁護士が事情聴取をするというのでは、法律事務遂行における責任の所在が不明確となり、また依頼者から見て誰が責任を持って依頼案件を遂行してくれるのかが不明の状態になることを防止するため、とされています。
Q.
事務職員の事情聴取は?
A.
依頼者からの事情聴取の一部を事務職員等弁護士でない者に行わせることについては、従来から、弁護士の監督のもとにその雇用する事務職員に履行補助者として行わせるのであれば、それ自体としては違法ないし不当な職務執行(さらには委任契約上の義務違反)にはならないと考えられており、「規程」でもその基本的な考え方に変更を加えるものではない、とされています。
裁判例において、履行補助者とは、「法律事務に関する判断の核心部分が法律専門家である弁護士自身によってなされており」、かつ事務職員「の行為が弁護士の判断によって実質的に支配されている」場合をいう(大阪地判平成一九年二月七日判タ一二六六号三三一頁)とされており、「規程」もこのような解釈に立脚しているとされています。
最終的には個々の具体的事案における判断となりますが、重要事項については受任弁護士が自ら債務者から聴取すべきであり、仮に事務職員等にいったん予備的に聴取させたとしても、その後自ら依頼者と面談して個々的に実質的に確認を取ることが求められます。要するに、弁護士自身が事情聴取したのと実質的に同視し得るような態様・内実のものである必要があり、その限度で一部について事務職員等に事精聴取の補助をさせることも許容されると考えられます。
Q.
面談に行けない理由(「特段の事情」)とは?
A.
事情聴取する際には、受任する弁護士が直接面談するのが原則です。
ただし、例外として、「面談することに困難な特段の事情」がある場合が規程に盛り込まれています。どのような場合に「特段の事情」があるといえるかについては、事案により個別具体的に判断されることになりますが、例えば、債務者が遠方に所在している場合には、交通手段が限定される程度、債務者の健康・就業状況その他の事情を勘案して個別具体的に判断されるべきとされています。
Q.
「特段の事情」があり、面談できない場合の面談方法とは?
A.
「面談することに困難な特段の事情」としては、債務者が離島に居住している場合などが典型的ですが、離島でなくても、債務者が遠方に所在していて受任に際してあらかじめ面談することが客観的に困難であるといえれば特段の事情が認められると解されます。
どの程度遠方であれば特段の事情ありと言えるかについては、単に距離のみで判断することは相当ではなく、交通手段が限定される程度、債務者の健康・就業状況その他の事情を勘案して個別具体的に判断されるべきこととされています。
面談できない場合には、面談に代わる適当な手段により第三条第一項各号の事項(債務の内容、当該債務者の資産、収入、生活費その他の生活状況、不動産の処理に関する希望、債務整理事件の処理に関する意向)を把握した上で受任することを要するとされており、その手段としては、電話、書面、ファクシミリ、電子メールその他の適当な通信手段を用いる場合と、同居の親族を介する場合(高齢・病床にある債務者の場合)が例示されています。
Q.
事件処理方針等及び不利益事項の説明とは?
A.

「規程」は、第四条において「弁護士は、債務整理事件を受任するに際し、事件処理の方針及び見通し、弁護士報酬及びその他の費用(以下「弁護士費用」という。)並びに当該方針に係る法的手続及び処理方法に関して生じることが予想される次に掲げる事項その他の不利益事項の説明をしなければならない。」と定めています。「次に掲げる事項」とは、以下の通りです。

 破産手続を選択したときは、法令の定めによる資格等の制限により当該債務者が就くことのできない職業があること。

 当該債務者が信用情報機関(資金需要者の借入金返済能力に関する情報の収集及び金融機関に対する当該情報の提供を行うものをいう。)において借入金返済能力に関する情報を登録され、金融機関からの借入れ等に関して支障が生じるおそれのあること。

 当該債務者が所有している不動産等の資産を失う可能性があること。

2 前項の説明は、前条に規定する聴取を行った弁護士において、自ら、当該聴取に引き続いて行わなければならない。

3 前項の規定にかかわらず、第一項の説明は、前条に規定する聴取を行った弁護士の同席の下で、他の受任弁護士(弁護士法人が受任する場合にあっては、当該弁護士法人の社員又は使用人である弁護士であって、前条に規定する聴取を行った弁護士以外の弁獲士をいう。以下この条において同じ。)において行うことができる。


4 第二項の規定にかかわらず、第一項の説明は、前条に規定する聴取に引き続いて行うに十分な時間が不足するときその他正当な理由がある場合は、当該聴取後、遅滞なく、当該聴取を行った弁護士において、自ら行うこができる。ただし、当該弁護士と十分な意思疎通を図った上で他の受任弁護士において説明することを妨げない。


5 前項の場合において、当該債務者が面談によらないで説明を受けることを希望するときは、電話、書面、ファクシミリ、電子メールその他の適当な通信手段を用いて説明をすることができる。この場合においては、当該弁護士が面談して行う場合と同じ程度に当該債務者が説明を理解することができるように努める。

Q.
弁護士費用の説明とは?
A.
「規程」は、第五条においてこのように定めています。
第五条 弁護士は、前条の規定により弁護士費用について説明をするに当たっては、債務者に弁護士費用に関する誤解が生じないようにし、かつ、自らの弁護士報酬の額が適正かつ妥当であることの理解を得るよう努める。
2 弁護士は、弁護士費用に関する事項を委任契約書に記載するに当たっては、当該債務者に弁護士費用に関する誤解が生じないように努める。

過払い金返還請求のみの受任を避ける

Q.
過払い金返還請求のみの受任の原則禁止とは?
A.
債務整理事件のうち、過払金返還請求事件については、特に批判が集中しているところであり、弁護士が過払金返還請求事件のみをいわばつまみ食いし、それにより適切な債務整理がなされず、法的知識に不案内の債務者に損害が生じているなどの批判があります。
「規程」第八条は、このような批判に対応して、債務整理事件の債務者の経済生活の再生を図る目的に沿って、債務者の負債状況をすべて把握した上で事件処理がなされるべきことを定め(第一項)、他に負債があるにもかかわらず過払金返還請求事件のみを受任することを原則として禁止しています(第二項)。

報酬について

Q.
債務整理事件の報酬に関するルールはどう変わったんですか?
A.
「規程」では、第九条において、第十条から第十六条までの規定に反して、任意整理事件の弁護士報酬を請求し、又は受領してはならない、と定めています。
たとえば、「任意整理」という手続きでは「解決報酬金」は通常の貸金業者については、債権者一人あたり2万円以内(税別)、「減額報酬金」は10%以下、「過払金報酬金」は25%以下というように、料金の上限が設定されています。

広告について

Q.
広告に関するルールは?
A.
「規程」は、第十八条においてこのように定めています。業務広告に関する規制は三種の規定があり、第一項及び第二項は努力義務、第三項は義務規定となっています。
以下引用
「第十八条 弁護士は、債務整理事件に関する業務広告を行うときは、債務整理事件に係る報酬の基準を表示するように努める。
2 弁護士は、債務整理事件に関する業務広告を行うときは、依頼を受けるに際して受任する弁護士と面談する必要があることを表示するように努める。
3 弁護士は、専ら過払金返還請求を取り扱う旨を表示する等債務者が負担している他の債務の処理を行わずに過払金返還のみを行うことに不利益がないかのように誤認又は誤導するおそれのある業務広告を行ってはならない。」
第一項、第二項を努力義務としたのは、広告の種類によっては、そこに盛り込むべき情報量に限りがあり、報酬基準や弁護士との面談する必要があることの表示を強制することが、不可能を強いるものであったり、そうではなくても著しく困難なことを強いることがあり得るからとされています。