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求人票記載の給与額と契約上の給与額 求人票に最低限必要な項目と記載してはいけない項目とは
求人票に記載された給与額の意義
求人票に「給与月額25万円」と記載して労働者を募集した場合、使用者は、その後の採用において、求人票記載通りの給与額で労働者を採用しなければならないのでしょうか。
労働者としては、求人票に記載された給与額等の労働条件に魅力を感じて応募する訳ですから、その後に採用される際にも、当然、求人票記載の給与額が労働契約の内容となると期待していると思います。
他方で、労働基準法15条1項は「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と規定して、労働条件の明示義務を使用者に課していますが、それは、あくまでも「労働契約の締結」時点、すなわち、採用する際であって、それ以前の募集する際ではありません。
そこで、使用者は、求人票に記載した給与額で、労働者と労働契約を結ばなければならないのか、ということが問題となります。
求人票に記載された労働条件と労働契約上の労働条件(2つの裁判例)
求人票記載の労働条件は、使用者が労働者を募集する段階で明示した労働条件といえます。募集段階で使用者が労働者に明示した労働条件と実際に締結された労働契約上の労働条件とが異なったケースにおいて、異なる判断が下された2つの裁判例があります。
求人票記載の労働条件が労働契約上の労働条件となったケース
事案
労働者Xは、ハローワークで求人票を閲覧し、Y社の求人票に「契約期間の定めなし」、「定年制なし」等の労働条件が明示されていたことに魅力を感じ、Y社代表者等との採用面接を受けた。
面接では求人票の記載と異なる労働条件とする旨の明確な説明がなされなかった。面接後、Y社はXに採用する旨の通知を出し、Xはその通知を受けて、今までの就業先を退職した。
その後、Yは求人票記載の労働条件と異なる内容が記載されている労働条件通知書(1年の有期契約、定年制が採用)をXに提示し、その裏面にXが署名押印した。
判断
当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなど特段の事情のない限り、求人票記載の労働条件が労働契約の内容となるとし、XY間には、期間の定めのない、定年制のない労働契約が成立したと判断した。
求人票記載の労働条件が労働契約上の労働条件となったケース
事案
労働者Xは、ハローワークで求人票を閲覧し、Y社の求人票に雇用形態が「正社員」と明示されていたことに魅力を感じ、Y社との採用面接を受けた。採用面接の結果、Y社はXを「契約社員」として内定することとし、雇用形態を契約社員とする内定通知書、雇用契約書案を、面接の翌日、Xに送付した。Xは、これに対して特段の異議を述べず1か月以上経過後に、署名押印した雇用契約書をY社に提出した。
判断
使用者による就職希望者に対する求人は、雇用契約の申込の誘引であり、その後の採用面接等の協議の結果、就職希望者と使用者との間に求人票と異なる合意がされたときは、特段の事情のない限り、合意の内容が求人票記載の内容に優先するとし、XY間には、Xを契約社員とする内容の労働契約が成立したと判断した。
上記2つの裁判例は、相反するものではありません。前者は、採用通知の時点までに求人票記載の労働条件と異なる旨の説明等がなかったため、求人票記載の労働条件を内容とする労働契約が成立すると判断されたものであるのに対し、後者は、求人票記載の内容と異なる労働条件とする旨の説明がなされていたため、求人票記載の労働条件とは異なる内容の労働契約が成立すると判断されたものです。
したがって、求人票記載の労働条件と採用の際の労働条件とが異なるという説明等がない限り、求人票記載の労働条件が雇用契約の内容となるといえます。
結論
使用者は、求人票に記載した給与額で、労働者と労働契約を結ばなければならない訳ではありません。しかし、今日、求人票記載の労働条件の持つ意義については、「求職者は当然求人票記載の労働条件が雇用契約の内容になるものと考えるし、通常求人者も求人票に記載した労働条件が雇用契約の内容になることを前提としている」から「求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り、雇用契約の内容になるものと解するのが相当」(千代田工業事件)と判断され、これが多くの裁判例の採用するところとなっています。
したがって、使用者は、求人票記載の労働条件と異なる労働契約を締結しようとする場合には、採用通知の時点までに、求人票記載の労働条件とは異なる旨の説明等を十分にする必要があります。
また、平成29年に職業安定法が改正され、平成30年1月1日から、求人者は、求職者と労働契約を締結しようとする場合において、求人票記載の労働条件を変更する場合は、書面か電子メールで、変更内容を明示しなければならないことになりました。
使用者としては、求人票記載の労働条件を変更する場合には、事前に書面やメールで変更明示しなければ、求人票記載の労働条件を内容とする労働契約が成立する可能性が高いと考えておくべきです。
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